先週のウルトラマン訴訟について、なぜ、日本とタイで結論が異なったのかについて、少し考察をしてみました。
この訴訟のメインの論点は、当事者間の権利譲渡に関する書類が偽造されたもので、効力がないものかどうか、ということにあったようです。
これについて、日本の裁判所の判断は、「署名(サイン)が代表者本人のものであるかどうか、はっきりとしないが、印鑑が会社の代表取締役印であることは間違いないので偽造ではない。」という趣旨の判断をしたようです。
日本の民事訴訟法では、真正な印影(押されている印鑑の形)がある場合は、文書は真正に成立したものと推定されます。すなわち、効力がある書面と推定されるのです。
推定ですので反証があれば、偽造書面として無効となりますが、権限のある代表者が押したかどうか、はっきりと分からないけれども、押されている印は会社の代表社印に間違いないというような場合には、効力があると認められることになります。
これに対し、タイでは、印影が真正であるということはそれほど重視されず、話の経緯から、代表者でない者が作成した可能性が高いと判断されたということではないかと思われます。
日本の方が、押印に一応の法的効力が認められるため、印影が正しい場合に、偽造を主張する側が、それを証明しなければならないことになります。
他方で、タイでは、契約書の効力を主張する側が、正式に成立した契約書であることを証明する必要があります。
このようなことから、真正な押印のある文書の成立の証明責任がどちらにあるかということが、結論の相違に影響があったのではないかと思っています。
このように、日本では正しい印影があれば誰が押したかを確認しなくても、書面が偽造ではなく効力があると、一応考えることができ、裁判所もそれに即した判断をしてくれます。
他方で、タイではそうではなく、押印に書面の成立の真正を推定する効力はない、ということに注意が必要です。
正式な会社印が押してあったとしても、重要なのは、代表権(サイン権)のある代表者本人が、サインをしたかどうかを確認する必要があります。
従って、タイでは、IDカードで本人確認の上、IDカードのコピーにサインをしたものを添付するなどして、代表者本人が確実に署名していることを確認する処理方法が、実務上とられています。
日本人は、正式な押印があれば、つい効力のあるものと考えてしまいがちですが、印鑑だけを信用したのでは不十分であり、必ず本人確認をしなければならないということに注意が必要です。
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