適用法と同様に、紛争が生じた場合、その最終的な解決方法として、紛争解決機関をどこにするかについて、契約書上で予め合意している例も多くみられます。
それでは、契約によって、紛争解決機関を合意する場合は、どの様に決定すべきでしょうか。
紛争解決機関について、裁判所にするのか、国際仲裁機関による仲裁にするのか、また、場所はどこにするのか、東京かバンコクか第三国かなどを決めておかない場合は、紛争の際にどこに訴えられるかはっきりしないことになります。
これについては、あくまでもケースバイケースではありますが、タイに本店のある会社との契約である限り、一般的には、タイの裁判所としておくのが無難であるように思われます。
その理由は、「ウルトラマン訴訟について」の回でも少しご説明しましたが、日本の判決はタイでは執行ができず、また、タイの判決は日本では執行ができないからです。
その為、日本側の当事者が、タイ側の当事者に、例えば金銭の支払いを求める場合には、日本で裁判をしても、それを執行するためにはもう一度、タイで裁判を起こす必要が出てきます。
そうであるならば、最初からタイの裁判所を管轄裁判所として定めておかないと、1つの事件について、2回裁判を行うことになり、時間が2倍かかってしまいますし、費用も増える上に、不利な判断を受けるリスクも高まるのです。
逆に、タイ側の当事者が日本の当事者に、金銭の支払いを求めるような場合には、タイを管轄裁判所にしておくことにより、タイ側の当事者は一度タイで訴え提起をしなければならず、そのため、日本で裁判を起こすことができなくなるため、タイ側に手続き上の負担を強いることになり、最終的な執行まで時間がかかる結果となります。
従って、その場合でも、日本側としては、タイを管轄裁判所とする方が、有利に事を進めることができることになります。
また、仲裁手続を利用すれば、直接執行出来るのではないかと考えられるかも知れません。
しかしながら、本来は、裁判所に、執行のための仲裁判断の承認手続きを求めると、手続面が正当であるかということのみを確認するだけで、迅速に仲裁判断を承認しなければらないのですが、タイの裁判所は、実質的に仲裁判断の内容に渡り、正当かどうかを判断するため、結局もう一度タイの裁判所に訴え提起をしたのと同様に、時間がかかる結果になってしまいます。
他方で、日本で執行を受ける場合には、日本の裁判所は、手続面のみを確認して、実質的な内容の判断をしないので、タイの裁判所と比べると、日本側が執行される場合のみ、迅速に手続が進み、不公平な結果を招くことになります。
以上より、一般論としては、管轄裁判所は、タイの裁判所としておくのが無難かと思われます。
また、特に紛争時に、日本側からタイ側に金銭の支払いを求めるケースが想定される場合には、適用法は、タイ法にしておいた方が、裁判手続がスムーズに進むことになります。
日本法を適用法とする契約書に基づき、タイの裁判所に訴え提起をしますと、タイの裁判所に日本法の解釈について、逐一説明するという繁雑な作業が必要になり、訴訟進行に膨大な労力を要することになってしまうからです。
なんとなく、日本の裁判所を管轄裁判所としておけば、安心という事でもないことに注意が必要です。
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