アジア・太平洋法制研究会 第10回国際民商事法シンポジウム

Selamat pagi!

本日は、当事務所所属Udomchai Leesin弁護士が法務省法務総合研究所,公益財団法人国際民商事法センター主催国際民事法シンポジウム(オンライン開催)に参加いたしますので、そのお知らせでございます。

日時 2021年3月4日 13時30分〜

(シンポジウムは10時〜17時15分)

詳細は下記のリンクをご覧いただければと存じます。

001339256.pdf (moj.go.jp)

 

今回のテーマは東南アジアでのジョイントベンチャー法制についてでございます。

 

興味をお持ちの方は、事前にお申し込みいただいたうえで、是非是非ご参加くださいませ。

 

インドネシアの裁判制度〜その2 裁判傍聴

Selamat sore!

皆様、こんばんは。

日本は緊急事態宣言も解除されましたが、東京では感染者が微増といった形が続いていますね。やはり世間で言われているように、これからは第2波・第3波が必ず来ることを前提に行動していかなければならないのかもしれません。

 

インドネシアでも、感染のピークは過ぎたと見られているようで、制限を緩和する方向で動いているようです。しかし、そもそもレバラン休暇での帰省を防ぎ切れていない上、聞いたところによると、州境の越境違反者やマスクを着用していない者の処罰が、臀部への鞭打ち(つまり、お尻ぺん○んですね)や腕立て伏せというレベルで実施されているようですから、今後もどうなるか分からない状況ですね。

また、現地の弁護士の話では、インドネシアの労働省がコロナウイルスのコントロール状況が不明の場合、外国人労働者に新しい就労許可を発行しないという方針にしている旨の話も上がっていました。

 

長い闘いにはなりそうですが、皆さん頑張りましょう。

 

さて、今回は、まだ新型コロナがインドネシアで感染確認される前に行ってまいりました、ジャカルタ裁判傍聴の雑感をお伝えしたいと思います。

 

私が訪れたのはジャカルタの通常裁判所です。

入り口に入る前に、東京地方裁判所等と同様に荷物検査があります。

と言っても、東南アジアは大きなショッピングモールレベルでどこでもチェックしているので、この辺りは珍しくないですね。

こちらが入ってすぐのエントランス部分です。

それほど広くはありませんが、豪華な作りでした。

こちらが法廷前の廊下です。どこの国でも裁判所の廊下は重苦しい雰囲気ですね。

その日に行われる裁判は、全て電光掲示板に掲示されるため、友人の目当ての事件(大学の課題として、傍聴結果を報告しなければならなかったようです。)を探して指定の法廷に向かうのですが、全く始まる気配がありません。(係員にも確認しているので、場所を間違えたわけではありません。)

多分1時間後になったんだと思うと係員が言うので、仕方なく裁判所の受付を見学に行きました。

裁判体ごとに受付が分かれている日本の裁判所とは異なり、窓口はここ1箇所のようでした。このため、人で溢れかえっています。

待合室には、いろんな裁判手続きに関する説明書きが置いてありました。

さらに、インドネシアでは、(少なくとも制度上は)オンラインでの裁判手続も進んでおり、e-courtの窓口もありました。P Cを持っていない人用ですかね?

いまだにF A Xでのやり取りが続く日本でも早急に進めて欲しいところです。

 

1時間ほど時間を潰して元の法廷に戻りましたが、全く始まりそうにありません。

このままでは無駄足になってしまいそうなので、すでに開廷していた法廷に移動しました。

 

そこでは、法学者を呼んで賄賂罪が成立するかどうかの尋問を行っていたのですが、まず傍聴席のラフさに驚きます。日本ではカメラで法廷を撮影することはおろか、携帯電話を取り出して使用することすら禁止されているのですが、なんと、傍聴席で携帯を充電しながらゲームをしているじゃないですか!!

さらに他の大きめの法廷でも、一眼レフで写真を撮影していても裁判官は何も文句を言いません。。。これは日本の弁護士としてはカルチャーショックでした。私も撮影してみようかと思いましたが、一応は禁止事項のようでしたので控えました。

 

また、傍聴した尋問が専門家に対するものであったせいかもしれませんが、質問が全く一問一答形式になっていませんでした。弁護士がずっと話していたかと思いきや、今度は法学者が回答で延々と話し続けるといった具合です。裁判記録と言うか証言記録はどうやって残しているか不思議です。。。

 

1時間ほどかけて2つの法廷を見て回ったのち、最初に訪れた法廷を再度覗いて見ましたが、最後まで始まらないままでしたので、諦めてその場を後にしました。

 

いかがでしたが?

予想はしていたのですが、法廷の遅延はショックでした。せいぜい30分くらいの遅れならばわかるのですが、2時間以上過ぎても係員も慌てる様子はなさそうです。時間が読めないインドネシアは裁判の時間すら読めないことを痛感しました。

 

それではまた次回!

 

おまけ

訪れたジャカルタの裁判所では、エレベーターが見当たらず、皆、外の廊下と階段を使って移動していました。こちらが、その廊下から外を撮った写真です………隣家が近すぎませんか?

入り口でいくら荷物検査したところで、これなら隣家から火炎瓶等を投げ入れることは十分に可能な距離です。東南アジアのショッピングモールの荷物検査と同じで、裁判所の警備も形式的なものに過ぎないようですね。

インドネシアの裁判制度〜その1 制度概要

Selamat siang!

まだ感染拡大がインドネシアではそれほど大きな事態となってはいなかった3月某日に、友人に誘われてジャカルタの裁判を傍聴してきましたので、今回はインドネシアの裁判制度の概要をご紹介し、次回に私が傍聴したときの様子をお伝えしたいと思います。

 

インドネシアには最高裁判所とその下に設置される通常裁判所があるところは日本と同じですが、最高裁判所の管轄に、さらに宗教裁判所、軍事裁判所、行政裁判所があります。

宗教裁判所は、名前こそ「宗教」となっていますが、ここでいう宗教はイスラム教を指し、イスラム教徒の婚姻関係などを判断する機関です。イスラム教は他の宗教と違い、その戒律が実生活を法規範として拘束するレベルとなっているのでこのような事態になるのでしょうね。

 

こちらは私が所属するJ I L A(日本インドネシア法律家協会)で2017年に最高裁判所を訪問した際の写真です。

外にはジャカルタの象徴・モナスも見えます。

建物の最上階は、ドーム上になっており、最高裁判事が集まって議論ができるようになっています。しかし、写真を見ておわかりの通り、ものすごく広いのです。インドネシアには最高裁判事が約50名いらっしゃる(その時々で人数が変わります。。。)ので、これぐらいの広さにしなければならないのかも知れませんが、円形上に座席が配置されているため、端と端では互いの顔は見えなさそうですね。そもそも、この形、近くのモスクとそっくりなような。。。

さて、通常裁判所は日本と同じように、地方裁判所と高等裁判所があります。私が傍聴したのもこの通常裁判所です。また、通常裁判所には、専門性の高い労働事件・商事事件などの特別裁判所が設けられているところもあります。

以前、J I L Aでインドネシアの司法研修所(日本とは違い、裁判官のみが研修を受けることができるようです。)を訪問した際、裁判官の仕組みとして、通常裁判所の人事は一方通行だと聞いたことがあります。例えば、日本では、はじめは地方裁判所の左陪席(3人の裁判官のうち、法廷で左に座る人で、若手の裁判官が務めます)からスタートしても、その後に地方裁判所の右陪席→裁判長となるとは限らず、大抵は、途中で高等裁判所の左陪席や右陪席を経験して、地方裁判所の裁判長となり、そこからさらに高等裁判所の裁判長へと進んでいくように思います。これに対し、インドネシアでは、地方裁判所の左陪席から始まるところは同じでも、そのまま地方裁判所の右陪席→裁判長を経て、高等裁判所の裁判官となるようで、高等裁判所の裁判官が地方裁判所に戻ることは原則としてないようです。データを調べたわけではないので確証はないのですが、もし本当だとすると、若手は経験豊かな裁判官と仕事を共にする機会が少なく、人材育成の観点からは些か問題がありそうですね。

さらに、インドネシアの特徴として、最高裁判所とは別系統で憲法裁判所が設置されています。こちらの写真が、2017年に同じくJ I L Aで憲法裁判所を訪れた際のものです。

憲法裁判所内には、インドネシアの憲法史が分かる資料館もあります。もちろん全てインドネシア語での説明ですが。。。

最高裁判所が違憲審査権を有する日本とは異なり、憲法裁判所が別途設置されている点が特徴的です。この憲法裁判所、実は普通とは異なり一発勝負なんです。つまり、日本のように憲法問題を地方裁判所から最高裁判所まで最大3回審理するのではなく、最初から憲法裁判所に訴訟が提起され、憲法裁判所の判断が最終決定となります。

 

いかがでしたか?

次回は裁判傍聴に行ったときの様子についてお伝えしたいと思います。

 

それではまた次回!

刑法改正等に関する近時のデモについて

インドネシアで生活していると日本では想定されない色々なことが起きます。

身近なところで言えば、アパートに入っていたWi-Fi業者が10月1日になんらの通知もなく、突如サービスを打ち切りました。私の部屋はそもそも携帯の電波が届きにくいため、お陰で家ではインターネットが使えない日々が続いております。。。

 

さて、日本の日常生活では想定されないものの最たる例として、デモが挙げられると思います。日本でも、東京で勤務していた際は、霞ヶ関の裁判所周りでもよくデモ行進を見かけましたが、せいぜい4列縦隊の整然としたもので、なんとも可愛らしいものでした。

インドネシアは違います。日本ではパプアのデモ(暴動)が報道されていたようですが、2019年9月下旬、ジャカルタは大規模デモの真っ只中でした。

抗議内容は刑法改正を中心とする近時の法改正に対するものです。

そもそもの前提として、インドネシア の刑法は基本的にオランダ植民地時代に制定されたままになっていたようで(民法も未だにオランダ植民地時代のままです。)、真の独立を目指してその改正を長年審議していたようです。

しかし、その内容が知れるや、直近で汚職撲滅委員会の権限を縮小させるような改正がなされていたことも相まって、学生を中心にその正当性を疑問視する声が高まり、法案の撤回を求めて、ジャカルタを含む複数の大都市で大規模デモに発展しました。

報道によれば、1998年のスハルト失脚時以来の大規模デモだそうで、2019年9月25日時点で、少なくとも300名以上が負傷、94名が逮捕され、その後には、死者まで生じる深刻な事態となりました。

海外メディア(日本は除かざるを得ませんが)が特に取り上げていたのは婚外の性交渉に関する刑法改正ですが、他にも大統領への不敬罪や堕胎に関する罪も新たに規定されるなど、イスラム色が濃く、かつ、民主化から遠ざかる内容(報道機関からすれば言論の自由に対する弾圧する内容)となっていました。

また、定住地のない方に対する罪(これに関しては日本も他人事ではないですね。軽犯罪法1条4号がありますから。)だったり、女性が夜間に一人で歩くことを処罰する内容だったり、果ては家で飼っている鶏が隣家に侵入することに対してまでも刑罰を科すことまで法案に含まれるなど、俄かには信じられないような話も出ていました。

 

また、法案の内容もさることながら、その改正に至る経緯自体も問題となっていたようです。

前回行われた選挙の結果に基づき、10月1日に新国会が成立することになっていたのですが、政府は旧国会期間中に、選挙で争点となっていなかった上記法案の成立を目指したのです。

結局、ジョコ・ウィドド大統領が法案の審議延期を発表しましたが、その後もデモは法案自体の撤回を求めて10月2日頃までは続きました。

私が現在在学しているインドネシア大学からは、この期間は一切ジャカルタ、特にデモ発生地には近づかないように命令が出ていたため、デモの様子をこの目で見ることは叶いませんでしたが、連日、テレビ局がトップニュースで扱っていました。

現在、デモは無くなったようですが、法案自体が撤回されたわけではなさそうなので、今後もインドネシア がどのような道を進むのか、経過を注視していきたいと思います。

 

しかし、今回の事件で私が一番気になったのは、何が「事実」かよく分からないということでした。私も弁護士の端くれとして、本件の情報収集に努めるべく、法案に対し声高に反対するインドネシア大学の学生複数名に、「インドネシア語でいいから、法案そのものを見せてくれ」と尋ねたのですが、その内容を直接見た人は、少なくとも私が尋ねた学生の中には一人もいませんでした。つまり、法案の内容を自ら吟味しないまま、デモを行っていたのです。

インドネシア人の友人に国会のホームページを見てもらいましたが、どうも法案は掲載されていないようです。

このため、結局、どこまでが真実なのか、未だによくわかりません。例えば、婚外の性交渉についても、婚外の性交渉全てを禁止したと記載する新聞と、同棲する男女にのみ限定しているように報道する新聞とがあり、その構成要件すら判然としません。まして、鶏が隣家に侵入したら罰金刑など、到底そのまま鵜呑みにするわけにはいきません。。。

 

私がインドネシアに来てまだ2ヶ月しか経っておらず、インドネシア語も分からないことが、主な原因なのでしょうが、この国で「事実」を議論することの難しさを痛感した2週間でした。

 

インドネシア 弁護士会(ADVOKAI)訪問

今回は、私が運営委員を務めておりますJILA(日本インドネシア法律家協会)のメンバーが今週火曜日に訪問したインドネシア の弁護士会KAIについてご紹介したいと思います。

日本にも弁護士会はあるのですが、インドネシアの法曹制度は日本とは大きく異なっているため、必然的にその役割も大きく異なります。

特に、インドネシアの弁護士会は独自に資格試験を実施し、この試験に合格すれば基本的に弁護士になれます。日本のように、裁判官・検察官・弁護士と同一の試験を受け、同一の研修を受けるわけではありませんので全然違いますね。

このように独立権限を有するインドネシアの弁護士会ですが、一旦は統一弁護士会(PERADI)を弁護士法により設立していたものの、現在は再度分裂し、今では6つの弁護士会が存在しているようです。

 

今回訪問させていただいたのは、その弁護士会のうちKAI(Kongres Adovokat Indonesia)というところです。

皆さん気さくな方々で大変歓迎していただき、

このように日本語の歓迎のボードまで作っていただきました。

 

こちらのKAIにはインドネシア全体で5〜7万人(正確な人数は分からないと言われてしまいました)中、約25000人のインドネシア人弁護士が所属しているということです。

 

先程述べた弁護士会の分裂について理由を伺いましたが、何か特定の決定的要因があったというわけではないが、残念ながら明確な答えは返ってきませんでした。

(そもそも前にあった統一弁護士会も真の意味で1つになれていなかったというご説明でした。)

今後の方向性としては、今ある複数の弁護士会を統一するというよりは、むしろ既存の弁護士会の上位組織として、別の団体を作る動きがあるそうですが、今年選挙したばかりで、まだ法制化できるかわからず、道はまだ遠いということでした。

日本と違いインドネシアでは各弁護士会がそれぞれ弁護士資格試験を実施するため、各団体で足並みが揃わなければ、弁護士の質の低下は今後大きな問題となりえます(極論を言えば、最大派閥を形成するために特定の弁護士会が試験の難易度を下げ、人数を増やしやすくすることも考えられます)ので、弁護士としての信頼を得るためには少なくとも試験制度の統一は実現していただきたいところです。

 

また、法曹に対する信頼と関連してインドネシアで必ず問題になるのが、法曹の汚職です。
直近では発覚したのが年に4件程度だそうですが、KAIの会長ご自身、未発覚の事例は他にも存在することを認めていました。若い裁判官だけでなく、ベテランの裁判官や大学教員まで務める弁護士も現に捕まっており、かなり由々しき問題となっております。

裁判官の初任給を伺ったところ、年間1億4400万ルピア(現在のレートで約110万円)ということなので、所得の低さ(と言ってもインドネシア全体の平均からすれば決して低額ではないと思われますが)も要因の一つなのかもしれません。

白熱した意見交換が行われましたが、こちらからは日本のお菓子をお土産に贈呈いたしましたところ、

(左が、KAI会長のHERNANTO先生、右がJILA会長の草野先生です。)

私を含め全員に盾と会員バッジをいただきました。

今後もインドネシアの弁護士会動向は注視して参ります。

 

おまけ

インドネシアで会合等に出席すると、必ずと言っていいほど水とともに↓の箱が目の前に置かれています。

この箱の中はというと,,,

大体このような感じで、お菓子と揚げ物、時にはちょっとしたパン(roti)が入っています。

勧められるので毎回食べるのですが、会合が一日3回あったりすると、もうこれだけでお腹いっぱいになって夕食を抜かなければならなくなるなどの弊害が出ます。

皆様もインドネシアで会議に出るときはご注意ください。

(歓待の証しなんですけどね。。。)