インドネシアの裁判制度〜その1 制度概要

Selamat siang!

まだ感染拡大がインドネシアではそれほど大きな事態となってはいなかった3月某日に、友人に誘われてジャカルタの裁判を傍聴してきましたので、今回はインドネシアの裁判制度の概要をご紹介し、次回に私が傍聴したときの様子をお伝えしたいと思います。

 

インドネシアには最高裁判所とその下に設置される通常裁判所があるところは日本と同じですが、最高裁判所の管轄に、さらに宗教裁判所、軍事裁判所、行政裁判所があります。

宗教裁判所は、名前こそ「宗教」となっていますが、ここでいう宗教はイスラム教を指し、イスラム教徒の婚姻関係などを判断する機関です。イスラム教は他の宗教と違い、その戒律が実生活を法規範として拘束するレベルとなっているのでこのような事態になるのでしょうね。

 

こちらは私が所属するJ I L A(日本インドネシア法律家協会)で2017年に最高裁判所を訪問した際の写真です。

外にはジャカルタの象徴・モナスも見えます。

建物の最上階は、ドーム上になっており、最高裁判事が集まって議論ができるようになっています。しかし、写真を見ておわかりの通り、ものすごく広いのです。インドネシアには最高裁判事が約50名いらっしゃる(その時々で人数が変わります。。。)ので、これぐらいの広さにしなければならないのかも知れませんが、円形上に座席が配置されているため、端と端では互いの顔は見えなさそうですね。そもそも、この形、近くのモスクとそっくりなような。。。

さて、通常裁判所は日本と同じように、地方裁判所と高等裁判所があります。私が傍聴したのもこの通常裁判所です。また、通常裁判所には、専門性の高い労働事件・商事事件などの特別裁判所が設けられているところもあります。

以前、J I L Aでインドネシアの司法研修所(日本とは違い、裁判官のみが研修を受けることができるようです。)を訪問した際、裁判官の仕組みとして、通常裁判所の人事は一方通行だと聞いたことがあります。例えば、日本では、はじめは地方裁判所の左陪席(3人の裁判官のうち、法廷で左に座る人で、若手の裁判官が務めます)からスタートしても、その後に地方裁判所の右陪席→裁判長となるとは限らず、大抵は、途中で高等裁判所の左陪席や右陪席を経験して、地方裁判所の裁判長となり、そこからさらに高等裁判所の裁判長へと進んでいくように思います。これに対し、インドネシアでは、地方裁判所の左陪席から始まるところは同じでも、そのまま地方裁判所の右陪席→裁判長を経て、高等裁判所の裁判官となるようで、高等裁判所の裁判官が地方裁判所に戻ることは原則としてないようです。データを調べたわけではないので確証はないのですが、もし本当だとすると、若手は経験豊かな裁判官と仕事を共にする機会が少なく、人材育成の観点からは些か問題がありそうですね。

さらに、インドネシアの特徴として、最高裁判所とは別系統で憲法裁判所が設置されています。こちらの写真が、2017年に同じくJ I L Aで憲法裁判所を訪れた際のものです。

憲法裁判所内には、インドネシアの憲法史が分かる資料館もあります。もちろん全てインドネシア語での説明ですが。。。

最高裁判所が違憲審査権を有する日本とは異なり、憲法裁判所が別途設置されている点が特徴的です。この憲法裁判所、実は普通とは異なり一発勝負なんです。つまり、日本のように憲法問題を地方裁判所から最高裁判所まで最大3回審理するのではなく、最初から憲法裁判所に訴訟が提起され、憲法裁判所の判断が最終決定となります。

 

いかがでしたか?

次回は裁判傍聴に行ったときの様子についてお伝えしたいと思います。

 

それではまた次回!

レバラン休暇

Selamat sore!

インドネシアでは昨日でラマダンが終わり、今日からレバラン休暇です。

私は日本に一時帰国していますので現地での体験をレポートすることは残念ながら叶いませんでしたが、折角ですので以前のラマダンに引き続きレバランについても少し説明をしたいと思います。

 

ご存知の方も多いとは思いますが、レバラン(Lebaran)は、イスラム教徒における断食明け大祭のことを言います。

レバランはインドネシア語ですが、アラビア語を元にしたイドゥルフィトリ(idul fitri)という名前でも呼ばれています。

インドネシアでは、レバランの初日に「selamat idul fitri semuanyaa. mohon maaf lahir & batin」という挨拶を交わすのが習わしのようです。直訳しますと「イドゥルフィトリおめでとう。体と心ごめんなさい。」と言ったところでしょうか。なんでも、断食明けにイスラム教徒の人々はこれまでの体と心に対して行った良くないことについて謝るんだそうです。私が通っていたインドネシア大学法学部のインターナショナルコースの学生は、ハロウィン会etcの写真を見ているとお酒を嗜んでいたような気がするんですが、ここで謝ることで全て清算するんですかね?

また、レバランはhari kemenangan(勝利の日)とも言います。これは、一ヶ月に及ぶ断食期間(ラマダン)でそれまでの罪と戦い、断食期間の終了によってこの罪に打ち勝ったことになるそうで、レバランはこの勝利記念の日でもあります。

イドゥルフィトリの祝日自体は今日から明日の2日間(ラマダンの回でもご説明した通り、毎年日付がズレますのでご注意を!)なのですが、イドゥルフィトリの前後2日間も政令指定休日となりますので、最低6連休になります。このため、この期間を利用して里帰りや旅行をする人が多いそうです。私もこの休暇を利用してインドネシア人の友人家族とカリマンタン島南東部を旅行する予定だったのですが、新型コロナウィルスのせいで当然中止になってしまいました。。。

いかがでしたか?

インドネシアでは、労働法にも雇用主が全ての宗教に配慮しなければならない規定があるなど、自分の宗教だけではなく他の宗教についても知っておく必要がありますので、これからも様々な宗教行事についてご紹介していきたいと思います。

 

ではまた次回!

インドネシア大学生活(日常編)

Selamat sore!

皆さんこんにちは。

 

日本ではコロナの感染拡大もようやく終息への道が見えてきましたが、長期化させないためにももう一踏ん張りですね。

他方、インドネシアでは大規模社会制限の実施がジャカルタ及びその周辺だけでなく、地方の州まで広がりつつあります。(ちなみにインドネシアは34の州から構成されています。)先日お伝えしました通り、今年は5月24日頃からレバラン(断食明け休暇)が始まりますので、ここがインドネシアにおける正念場とも言えます。

 

私の所属するインドネシア大学法学部は期末試験の真っ最中です。他学部は元々レバラン明けに試験を行うようでしたが、法学部は結局当初の予定どおりスケジュールをこなしてしまいました。最後の帳尻合わせの急ピッチさはどこの国も同じでしたが、うまく期末試験事態は、Googleのclassroomなどを活用してうまくこなしていました。このあたりの柔軟性はさすがというべきですね。

 

さて、前回はコロナ影響下の大学生活の様子についてお伝えしましたが、これまでインドネシアでの大学生活がどのようなものかを書いていなかったような気がしますので、この辺りで記憶を頼りに記しておきたいと思います。

 

大学生活の中心は何と言っても講義ですね。

当たり前と言われるかもしれませんが、少なくとも私の学部時代の実態は決して講義中心の大学生活とは言えないものでした・・・。

しかし、ここでは実際に講義中心の生活を学生が送っていると言っても過言ではありません。要因はいくつかありますが、最たる理由は講義の時間数ですね。

まず、1つの講義が通常(少なくともスケジュールの上では)2時間半あります。それも休憩なしで。そのような講義が1日に2〜3つ入っています。

ただし金曜日は比較的授業が少ないように感じました。この辺りも金曜日を安息日とするイスラム教に対する配慮でしょうか。あと、実際に2時間半やるかどうかは、教授の気分しだいです。やることもままあります。

そして、もう一つの要因が、課題の多さです。どの講義も基本的に課題が毎週のように出されます。その多くがグループワークで、他の学生の前でプレゼンテーションを行うこともしばしばです。

私が所属していたクラスはインターナショナルコースであったため、プレゼンテーションも、その後の議論も全て英語でした。

突然インドネシア語に切り替わるパターンも多々ありましたが、それでも学生たちの英語力には本当に毎回驚かされていました。

その反面、学生のプレゼンテーションが長々と毎回行われるせいで、教授から体系的に学問を学ぶことはできません。このあたりのバランスは難しいところですね。友人の学生はパワーポイントの作り方ばかりがうまくなると嘆いていました。

 

このように講義が忙しいため、学生のほとんどはアルバイトを行うことがありません。(そもそも雇用自体も募集がなさそうです。)

もっとも、これは忙しいからというだけでなく、彼らの多くが富裕層だからというのも大きな要因です。半数は車で学校までやってきますし、私の所属していたクラスには、前大統領のお孫さんや、有名人夫婦のお子さんもいました。(ただし、二人とも権威を振りかざすような態度をとらないので、全然気づきませんでした。)

ただし、学生もお金を稼ぐチャンスがあります。それは、インターンシップです。

日本でも最近は給与付きのインターンシップが増えてきたように思いますが、インドネシアではインターンシップは給与付きがスタンダードなようです。期間も2カ月から3カ月と、学期間の休校期間のほぼ全てを費やす形となっています。

このように書いていると、インドネシア大学の学生は日本の学生よりもはるかに勤勉のように聞こえますが、ちゃんと若者らしい面も備えています笑

サークル活動は盛んで、大学の広場のあちこちで車座(文字どおり車座です。みんな地べたに何時間も座っています。。。。)を作っている光景が見られます。

この辺りも写真にとっておけばよかったですね。。。

以前のブログで記載しましたが、私も隣の経済学部の登山サークルに混ぜてもらい、山に登ったこともあります。

他にも様々なイベントを自ら企画しては実行していくインドネシア大学の学生たち。内容・計画のレベルはともかく、その行動力には目を瞠るばかりです。

 

最後は恋愛事情ですね。イスラム教徒の多いインドネシアですが、他のイスラム教国ほどは厳しくない(アチェ州は除きます。たとえ外国人でも未婚のカップルで同州を歩かないでください。)というのもあり、大学校内や近くのカフェでよく手を繋いで話をしているカップルを見かけます。ただし、イスラム教徒の周りの目もあるので、日本のように自由奔放にとはなかなか行かなさそうですね。旅行している若いインドネシア人カップルを見かけることはなかったように記憶していますし、カフェで閉店時間までのんびり話をするくらいが一般的な過ごし方なのかもしれません。もちろん個人差はあるのでしょうが。

 

いかがでしたか?

私の大学生活は10年以上前のことですし、去年まで指導していたのも法科大学院という特殊な場所でしたので、今の普通の大学生の生活は分かりませんが、インドネシア大学で一番驚いたのは、やはり講義のやり方でしたね。ただ、1コマ3時間ぶっ続けは無理だと思います。。。退屈な授業なんか、みんなオンラインで、クラス全体参加のゲームを始めてますよ、先生方。。。

 

それではまた次回!

コロナ下の大学生活

Selamat siang!

皆様こんにちは。

せっかくのゴールデンウィークですが、ご自宅でいかがお過ごしでしょうか。

私はと言いますと、インドネシアにはゴールデンウィークは存在しないため、今日も通常通りの平日です。

そこで今日は、私が通うインドネシア大学での講義が現在どのようになっているかについてご紹介したいと思います。

 

インドネシアでは、初の国内感染者が3月2日に確認された後も、しばらくは通常の講義が行われておりました。もともとマスクをつける文化は(大気汚染のせいで)あったのですが、コロナのためにマスクをつけるという人は当初はほとんどいなかったですね。ただし、次第にマスク着用率は増えていきましたね。

 

しかし、3月15日頃より通常の講義は全て中止となり、今学期の全てがオンライン講義で行われることが決定しました。

さらに、元々は6月20日頃に終了するはずだったのですが、大学全体としては7月末日まで延期されてしまうこととなりました。

これにより、今年の9月から大学院に行く学生は留学時の成績表が院試に利用できない可能性が出てきたり、9月から留学を検討していた全ての学生が中止に追い込まれたり、インドネシアの就活には大きな影響を持つインターンシップが中止になったりと、ウィルスのおかげで大学生活の貴重な時間に重大な影響を受けている学生の嘆きを見聞きするようになりました。

 

もっとも、私が所属する法学部だけは何故か通常通りのスケジュールよりも更に早い日程で終わらせることにしており、5月末には全ての試験が終了する予定です。

おそらく、インドネシアの大学では文系・理系に限らず実地での調査が課題となることも多い(よくアンケートの回答依頼のフォームが他の学生から送られてきます。)ことから、そのような対外活動が必要な学部は大きく方針を変更する準備期間が必要となったものと思われます。

これに対し、法学部は基本的に何かを調査・検証する作業は不要なため(これでよく社会科学と言えたものです。。。)条文とインターネットがあれば講義ができてしまうため、コロナによる日程変更は生じませんでした。

しかも、他学部は今年のラマダン・レバラン期間に配慮し、元々のスケジュールでもレバラン後の5月下旬から期末試験を実施する予定だったのですが、法学部だけは何故か元々レバラン前に全ての試験を終わらせることを予定しており、今のところもこのスケジュールのまま進んでいます。(つまり、イスラム教徒の学生にとっては、頭に当分を接種できず、水も飲めない状況で試験を受ける羽目になることを意味します。)

 

このように書くと、法学部だけは大きな混乱がないようにも思えますが、残念ながら全くそんなことはありません笑

私が感じる一番の大学の問題は、誰も合意内容や決定を明示しないということにあるように思います。例えば、インドネシアでは、各教授のスケジュールに対する裁量がかなり広く、大学全体が延期を決定したとしても、各学部、そして各教授の一声ですぐに結論が変わってしまうことがよくあります。しかし、その割に、各教授は講義予定日当日、早くても前夜まで、次の講義をどうする予定か宣言しないため、毎回混乱が生じます笑

 

さて、個々の授業は日本でも現在多く利用されているZoomというアプリケーションを使って行われています。インドネシア大学では、学部レベルでも対話形式での講義が多いですが、オンラインだとなかなかうまく行かないですね。初めの頃はオンラインでも教授が対話形式でやろうとしていたのですが、学生が同時に質問・回答しようとするため頻繁に混線してしまっていた結果、もうあまりやらなくなってしまいましたね。Zoomにはチャット機能があるので、少なくとも学生からの質問はチャットの方で受け付ければ済む話なのですが。。。

 

オンライン講義最大の謎が、全く予定の日時通りに始まらないことです笑

元々時間を守らない国民性ではありましたが、それは渋滞のためもあるのかと思っていました。しかし、外出自粛下でも状況が変わらないことに鑑みるとどうやらそういうわけではなかったようですね笑

実はこれを書いている今も、本来であれば講義の時間なのですが、教授が何故か全く連絡が取れない事態に陥っており、1時間経過後に自然消滅したようです。(しかし、先週はここから突然何事もなかったかのように始まった講義もあったので油断は禁物です。)

インドネシア留学に来て一番学んだことは、インドネシア人との付き合いでは、最後の最後まで状況把握に努めなければならないことですね。本当によく確定事項が変わりますし、そもそも確定しないまま予定日時を迎えることもあります笑

 

でもオンライン講義への対応の早さは日本にはない素晴らしさでした。日本のように段階的な決定や承認プロセスを経ないため、やるとなったら方式が全く決まってなくても走り始められる強みを持っています。この辺りは見習わなければならないところですね。

 

さて、この記事を書いていて気づいたのですが、そう言えば普通の大学生活について書かずに異常事態の学生生活を記事にしていたことに思い至りました。そこで、次回はこれまで私が経験したインドネシア大学での学生生活について、記憶を辿りながら書いていきたいと思います。

 

それではまた次回!