インドネシアの裁判制度〜その1 制度概要

Selamat siang!

まだ感染拡大がインドネシアではそれほど大きな事態となってはいなかった3月某日に、友人に誘われてジャカルタの裁判を傍聴してきましたので、今回はインドネシアの裁判制度の概要をご紹介し、次回に私が傍聴したときの様子をお伝えしたいと思います。

 

インドネシアには最高裁判所とその下に設置される通常裁判所があるところは日本と同じですが、最高裁判所の管轄に、さらに宗教裁判所、軍事裁判所、行政裁判所があります。

宗教裁判所は、名前こそ「宗教」となっていますが、ここでいう宗教はイスラム教を指し、イスラム教徒の婚姻関係などを判断する機関です。イスラム教は他の宗教と違い、その戒律が実生活を法規範として拘束するレベルとなっているのでこのような事態になるのでしょうね。

 

こちらは私が所属するJ I L A(日本インドネシア法律家協会)で2017年に最高裁判所を訪問した際の写真です。

外にはジャカルタの象徴・モナスも見えます。

建物の最上階は、ドーム上になっており、最高裁判事が集まって議論ができるようになっています。しかし、写真を見ておわかりの通り、ものすごく広いのです。インドネシアには最高裁判事が約50名いらっしゃる(その時々で人数が変わります。。。)ので、これぐらいの広さにしなければならないのかも知れませんが、円形上に座席が配置されているため、端と端では互いの顔は見えなさそうですね。そもそも、この形、近くのモスクとそっくりなような。。。

さて、通常裁判所は日本と同じように、地方裁判所と高等裁判所があります。私が傍聴したのもこの通常裁判所です。また、通常裁判所には、専門性の高い労働事件・商事事件などの特別裁判所が設けられているところもあります。

以前、J I L Aでインドネシアの司法研修所(日本とは違い、裁判官のみが研修を受けることができるようです。)を訪問した際、裁判官の仕組みとして、通常裁判所の人事は一方通行だと聞いたことがあります。例えば、日本では、はじめは地方裁判所の左陪席(3人の裁判官のうち、法廷で左に座る人で、若手の裁判官が務めます)からスタートしても、その後に地方裁判所の右陪席→裁判長となるとは限らず、大抵は、途中で高等裁判所の左陪席や右陪席を経験して、地方裁判所の裁判長となり、そこからさらに高等裁判所の裁判長へと進んでいくように思います。これに対し、インドネシアでは、地方裁判所の左陪席から始まるところは同じでも、そのまま地方裁判所の右陪席→裁判長を経て、高等裁判所の裁判官となるようで、高等裁判所の裁判官が地方裁判所に戻ることは原則としてないようです。データを調べたわけではないので確証はないのですが、もし本当だとすると、若手は経験豊かな裁判官と仕事を共にする機会が少なく、人材育成の観点からは些か問題がありそうですね。

さらに、インドネシアの特徴として、最高裁判所とは別系統で憲法裁判所が設置されています。こちらの写真が、2017年に同じくJ I L Aで憲法裁判所を訪れた際のものです。

憲法裁判所内には、インドネシアの憲法史が分かる資料館もあります。もちろん全てインドネシア語での説明ですが。。。

最高裁判所が違憲審査権を有する日本とは異なり、憲法裁判所が別途設置されている点が特徴的です。この憲法裁判所、実は普通とは異なり一発勝負なんです。つまり、日本のように憲法問題を地方裁判所から最高裁判所まで最大3回審理するのではなく、最初から憲法裁判所に訴訟が提起され、憲法裁判所の判断が最終決定となります。

 

いかがでしたか?

次回は裁判傍聴に行ったときの様子についてお伝えしたいと思います。

 

それではまた次回!

インドネシア株式会社法 その2〜設立

こんにちは。

光陰矢の如しとはよく言ったもので、あっという間に師走ですね。

私の住むインドネシアでもクリスマスムードが高まってきました。街にはクリスマスソングが流れ、クリスマスセールが行われるのは日本と同じです。但し、気温が夏と変わらないので、全くこちらの気分が盛り上がりません。。。

クリスマスツリーも白っぽくしてあったりと雪感を出そうと努力している様が見受けられるのですが、いかんせんこの暑さでは体感と雪の視覚が全く一致しないのです。

ともあれ、祝日は基本的に国が認める(最近6つになりましたが)5つの宗教に関する行事がベースとなっており、クリスマスも祝日となっているくらい国としては浸透しているようです。

 

 

さて、今日はインドネシア株式会社法シリーズのうち、第2章から設立を取り上げたいと思います。

なお、本ブログ記載の株式会社法は、同法の概説を目的としており(決して条文の完全訳ではありません)、かつ、以前ご紹介した英訳版に則って記載しておりますので、個別の案件につきましては、必ず別途、弁護士など等法律の専門家に個別にご相談ください。

 

 

設立に関する条文はおおよそ次のような構造です。

(各冒頭のカッコ内番号は、特に言及のない限り当該条文の項番号です。)

第7条

⑴会社は2名以上のインドネシア語による設立証書によって設立されなければなりません。インドネシア語というのがかなりのネックですね。また、前回お伝えしました通り、インドネシアでの会社はあくまで契約に基づき設立されるものですので、発起人も当然2名以上となります。

(2) 各発起人は、設立会社の株式を引き受ける義務を負います。このため、原則として株主となりますので、内資・外資を問わず、どの会社も基本的に株主は複数存在しなければなりません。

(3) 但し、新設合併の際は、前項の定めは適用されません。

(4) 会社は、大臣(法務人権大臣を指します。以下同様です。)による設立認可が発行された日より法人格を取得します。

(5)先程、発起人兼株主は2名以上と述べましたが、途中で1名になってしまった場合の対処が規定されています。残された1名の株主は、6ヶ月以内にその保有する株式の一部を第三者に譲渡または新株を発行する義務を負います。

(6)上記6ヶ月を経過した場合、株主は、会社の全ての契約及び損失に関して個人責任を負うことになります。また、利害関係人は地方裁判所に対し、当該会社の解散命令を申し立てることができるようになります。

(7)株主が2名以上という規定も、国有会社等の場合は例外的に適用されません。

第8条

⑴前条第1項にある通り、設立の際は証書によって行う必要があります。この設立証書は、定款及びその他の会社設立に関する情報を記載しなければなりません。

(2) 前条にある「その他の会社設立に関する情報」の詳細が規定されています。

①自然人の発起人の氏名、出身地及び生年月日、職業、住所及び国籍、法人発起人の商号、本店所在地、住所、大臣の設立認可番号及び認可日  

②指名された取締役とコミサリスの氏名、出身地及び生年月日、職業、住所及び国籍

③払込済株式の株主名、株式の詳細及び額面価額 

この規定から、法人も発起人になれることが分かりますね。また、会社の株式は額面を記載して発行することになります。

(3) 発起人は、設立証書の作成に関し、第三者に委任することができる旨が規定されています。

第9条 

⑴法人格取得のための大臣決定に対する申請方法が規定されております。この点、インドネシアは日本より進んでいて、基本的に電磁的方法をもって申請を行うことになります。

(2) 但し、設立申請より前に、会社商号の申請を行う必要があります。

(3)当該大臣決定に対する申請や商号の申請は、公証人に対してのみ申請を委任できます。弁護士は手続自体はできないんでしょうかね。。。今後の調査課題です。

(4) 手続の詳細は政令により定められる旨が規定されています。

第10条

⑴大臣への申請は、会社の設立証書に署名した日から 60 日以内に、付属書類とあわせて大臣に提出する必要があります。

(2) 前項の「付属書類」に関する規定は、別途省令によって定められます。

(3) 申請書及び付属書類に問題がなければ、その旨が大臣から電磁的方法で連絡がきます。

(4) 逆に問題があっ場合、大臣は問題がある旨及びその理由を電磁的方法により通知してくれます。

(5) 問題がなかった場合、大臣からの通知から30日以内に、申請者は電子システムによって提出した認可申請書及び付属書類の原本を提出しなければなりません。結局ここで原本は必要となりますので、全てがネットワーク上で完結するわけではない点に留意しなければなりません。

(6)原本の提出がなされた場合、14 日以内に電子署名のある設立認可が発行されます。

(7) 第5項に規定にされる30 日以内に原本の提出をしなかった場合、または付属書類に不備があった場合には、大臣は電磁的方法でその旨通知し、第 3 項規定の認可申請書の受理通知は無効となってしまいます。

(8) 但し、異議がない旨の通知が無効となった場合、第5項の申請者は再度設立申請書を提出することができます。

(9) 第1項に定める60 日の期間内に大臣の設立認可申請が提出されない場合には、設立証書自体が無効となり、法人格未取得の会社は法により解散され、発起人によって整理されることになります。

(10) 第1項の規定は、再提出の場合にも適用されます。

第11条       

上記電磁的方法を行うための環境がない地域では、別途省令で定められた申請書の提出に関する更なる規定が適用されます。

第12条 

⑴発起人が会社設立の前に行う株式の保有及び払込に関する法律行為は設立証書に記載されなければなりません。

(2) 前項規定の法律行為が公正証書の方式によらない場合、かかる証書は設立証書に添付される必要があります。

(3) 他方、公正証書の方式による場合は、当該公正証書の番号、作成日、作成した公証人の名前及び住所を設立証書に記載することになります。

(4) 上記を満たさない場合、当該法律行為の権利義務を会社に帰属させることはできず、会社もこれらの法律行為に拘束されません。

第13条 

⑴発起人が設立前の会社の利益のために行った法律行為は、会社が法人格を取得後、最初の株主総会で、すべての権利義務を承認し、引き継ぐことを承認した場合にのみ会社を拘束します。

本条及び次条が、日本でも問題となる設立前の法律行為です。次条は「会社名義で行う法律行為」ですので、こちらは発起人名義で行う法律行為を指すものと思われます。

日本では設立前の法律行為についてはその内容自体かなり限定されていますが、少なくとも私がインドネシア大学で受けている講義の中では内容による限定については言及されていませんでした。本条及び次条による手続き的担保があるからなのかもしれませんが、この点も今後の調査課題です。

(2) 前項に定める株主総会は、会社設立後60日以内に開催されなければなりません。

(3)また、全株主が出席し、かつ、全株主が承認した場合のみ有効となります。

(4) 上記条件を満たなさない場合、法律行為を行った発起人が個別に責任を負うことになります。

(5) 株主総会の承認は、当該法律行為が、会社設立前に全ての発起人からの書面による承認を得ている場合は不要となります。

第14条

⑴法人格取得前の会社名義による法律行為は、全ての取締役、発起人、及びコミサリスが共同で行う場合に限り認められます。もっとも、会社名義で行ったとしても全ての取締役、発起人及びコミサリスは連帯してかかる法律行為の責任を負います。

(2) 前項の法律行為が一部の発起人によってのみ行われた場合は、当該発起人はかかる法律行為に責任を負い、会社は当該法律行為に拘束されません。必ず関係者(発起人だけではありません)全員で行う必要があります。

(3) 本条の法律行為は、会社が法人格を取得した後、自動的に会社に承継されます。

(4) また一部発起人のみが行った法律行為も、法人格取得後最初の株主総会において、全株主が出席し、かつ満場一致による承認された場合は、会社が当該法律行為の権利義務を承継します。

(5) 前項に定める最初の株主総会は、法人格取得後60日以内に開催されなければなりません。

以上が設立に関する条文の概要でした。各手続に要する日数が細かく規定されている点は安心感がありますが、実務上どこまで実行されているかはまた別問題ですので、今後はこの点も調べていきたいと思います。

それではまた次回!

※本ブログ記載内容は筆者個人の見解であり、所属する法律事務所の見解ではございませんので、何卒ご了解ください。

※個別の案件につきましては、必ず別途、弁護士など等法律の専門家に個別にご相談ください。

インドネシア株式会社法 その1〜総則

今回から複数回にわたって、インドネシアの株式会社に関する法律について概要を紹介いたします。

 

今回は第1章の総則部分についてですが、その前に、より総論的な説明を少しさせていただきます。

インドネシアでは、2007年にLaw no.40 year 2007 dated August 16(以下、「株式会社法」と言います。)が制定されました。

こちらがその英訳版として出版されているものです。

但し、表紙に記載されているのは商法で、株式会社法とは別の法律です。

 

なお、株式会社法も10年以上経過しており、設立時の申請方法の電子化など、制定当初から改正も行われておりますが、今回はこちらの本に記載されている条文の範囲のみでのご紹介ですので、予めご了承ください。(日本にいた頃は、毎年六法を買い換えさせられることに多少の苛立ちを覚えておりましたが、今となっては非常に感謝しております。。。)

また、外国企業には内資企業とは別に様々な規制が課されておりますので、個別の案件については必ず専門家にご相談いただきますようお願い申し上げます。

 

 

さて、日本では旧商法の大部分が会社法に移行されましたが、インドネシアでは、むしろ株式会社の組織関係に関する規定だけが株式会社法として取り上げられています。ちなみに、株式会社以外の法人形態は、民法及び商法にそれぞれ規定されています。

 

今回取り上げるのは、第1章の総則(第1条〜第6条)です。

第1条

この法律で用いられる様々な用語の定義が記載されております。この辺りは日本と同じですね。(といっても日本の法律は大体の場合、第1条は法律を制定した目的・趣旨が規定されているため、定義は第2条になりますが。)

本条で列挙されている用語は次の通りです。(番号は条文内の項番号です。)

1  株式会社

2  機関

3  社会・環境活動

4  株主総会

5  取締役会

6  コミサリス会(日本の監査役に類似)

7  公開会社(Listed company)

8  大会社(Public Company)

9  吸収合併(Merger)

10 新設合併(Consolidation)

11 買収

12 分割

13 書留郵便

14 新聞

15 日

16 大臣

 

各用語の説明は当該用語が出てくる章で併せて説明したいと思いますので、ここでの言及は2点に留めたいと思います。

まずは、第1項の「株式会社」について。 基本的な考え方は日本と同じなのですが、大きく違うのは、法律上「契約に基づいて」設立される必要がある点です。つまり、契約は2名以上で行うものですので、株主も必然的に2名以上いて初めて会社を設立できることとなります。

次に、「公開会社」について。先に紹介した本の英訳が非常に紛らわしいのですが、「Public Company」とされている第8項に規定される会社は、資本市場法令に定められる払込済資本金額及び株主数を満たさなければなりません。規模に注目している点で日本の「公開会社」とは異なるので、便宜上「大会社」という用語を今後は用います。これに対し、「Listed Company」とこの本では訳されている第7項の会社が日本でいう公開会社に近い概念ですので、「公開会社」と今後は呼ぶことにします。

 

第2条

本条は、会社の規則や社会秩序・モラルに反しない設立趣旨、目的、そして事業内容を定めるべきことが規定されているシンプルな条文です。

 

第3条

本条には株主有限責任が規定されております。すなわち、株主は、会社の債務・損失につき、払込資本以上の個人的責任を負いません(第1項)。但し、次の4つの例外(第2項)があります。

  •  会社が法人としての要件が具備されていない場合
  • 直接・間接問わず、個人的利益のために悪意で会社を搾取した株主
  • 会社の違法行為に関与した株主
  • 直接・間接を問わず、会社資産を違法に利用し、その結果会社の責任資産を不足させることに関与した過分

 

第4条

 この法律、定款、その他規則が会社に適用される旨が規定されています。

第5条

本条は会社の住所に関する規定です。会社は、その名称とインドネシア国内に本店所在地を有することを定款で定め(1号)、本店所在地に従った住所を有し(2号)、会社が行う書面による通知、公告、印刷物、会社が一方当事者となる証書は、完全な住所と名称が記載されていなければなりません(3号)。

 

第6条

会社は、定款で定められた期間内で存続します。但し、無期限と記載することも可能です。

 

以上が第1章の総則でした。次回は第2章の中から第1節会社設立についてご説明したいと思います。ではまた次回!

 

※本ブログ記載内容は筆者個人の見解であり、所属する法律事務所の見解ではございませんので、何卒ご了解ください。

※個別の案件につきましては、必ず別途、弁護士など等法律の専門家に個別にご相談ください。

 

 

 

刑法改正等に関する近時のデモについて

インドネシアで生活していると日本では想定されない色々なことが起きます。

身近なところで言えば、アパートに入っていたWi-Fi業者が10月1日になんらの通知もなく、突如サービスを打ち切りました。私の部屋はそもそも携帯の電波が届きにくいため、お陰で家ではインターネットが使えない日々が続いております。。。

 

さて、日本の日常生活では想定されないものの最たる例として、デモが挙げられると思います。日本でも、東京で勤務していた際は、霞ヶ関の裁判所周りでもよくデモ行進を見かけましたが、せいぜい4列縦隊の整然としたもので、なんとも可愛らしいものでした。

インドネシアは違います。日本ではパプアのデモ(暴動)が報道されていたようですが、2019年9月下旬、ジャカルタは大規模デモの真っ只中でした。

抗議内容は刑法改正を中心とする近時の法改正に対するものです。

そもそもの前提として、インドネシア の刑法は基本的にオランダ植民地時代に制定されたままになっていたようで(民法も未だにオランダ植民地時代のままです。)、真の独立を目指してその改正を長年審議していたようです。

しかし、その内容が知れるや、直近で汚職撲滅委員会の権限を縮小させるような改正がなされていたことも相まって、学生を中心にその正当性を疑問視する声が高まり、法案の撤回を求めて、ジャカルタを含む複数の大都市で大規模デモに発展しました。

報道によれば、1998年のスハルト失脚時以来の大規模デモだそうで、2019年9月25日時点で、少なくとも300名以上が負傷、94名が逮捕され、その後には、死者まで生じる深刻な事態となりました。

海外メディア(日本は除かざるを得ませんが)が特に取り上げていたのは婚外の性交渉に関する刑法改正ですが、他にも大統領への不敬罪や堕胎に関する罪も新たに規定されるなど、イスラム色が濃く、かつ、民主化から遠ざかる内容(報道機関からすれば言論の自由に対する弾圧する内容)となっていました。

また、定住地のない方に対する罪(これに関しては日本も他人事ではないですね。軽犯罪法1条4号がありますから。)だったり、女性が夜間に一人で歩くことを処罰する内容だったり、果ては家で飼っている鶏が隣家に侵入することに対してまでも刑罰を科すことまで法案に含まれるなど、俄かには信じられないような話も出ていました。

 

また、法案の内容もさることながら、その改正に至る経緯自体も問題となっていたようです。

前回行われた選挙の結果に基づき、10月1日に新国会が成立することになっていたのですが、政府は旧国会期間中に、選挙で争点となっていなかった上記法案の成立を目指したのです。

結局、ジョコ・ウィドド大統領が法案の審議延期を発表しましたが、その後もデモは法案自体の撤回を求めて10月2日頃までは続きました。

私が現在在学しているインドネシア大学からは、この期間は一切ジャカルタ、特にデモ発生地には近づかないように命令が出ていたため、デモの様子をこの目で見ることは叶いませんでしたが、連日、テレビ局がトップニュースで扱っていました。

現在、デモは無くなったようですが、法案自体が撤回されたわけではなさそうなので、今後もインドネシア がどのような道を進むのか、経過を注視していきたいと思います。

 

しかし、今回の事件で私が一番気になったのは、何が「事実」かよく分からないということでした。私も弁護士の端くれとして、本件の情報収集に努めるべく、法案に対し声高に反対するインドネシア大学の学生複数名に、「インドネシア語でいいから、法案そのものを見せてくれ」と尋ねたのですが、その内容を直接見た人は、少なくとも私が尋ねた学生の中には一人もいませんでした。つまり、法案の内容を自ら吟味しないまま、デモを行っていたのです。

インドネシア人の友人に国会のホームページを見てもらいましたが、どうも法案は掲載されていないようです。

このため、結局、どこまでが真実なのか、未だによくわかりません。例えば、婚外の性交渉についても、婚外の性交渉全てを禁止したと記載する新聞と、同棲する男女にのみ限定しているように報道する新聞とがあり、その構成要件すら判然としません。まして、鶏が隣家に侵入したら罰金刑など、到底そのまま鵜呑みにするわけにはいきません。。。

 

私がインドネシアに来てまだ2ヶ月しか経っておらず、インドネシア語も分からないことが、主な原因なのでしょうが、この国で「事実」を議論することの難しさを痛感した2週間でした。

 

インドネシア 弁護士会(ADVOKAI)訪問

今回は、私が運営委員を務めておりますJILA(日本インドネシア法律家協会)のメンバーが今週火曜日に訪問したインドネシア の弁護士会KAIについてご紹介したいと思います。

日本にも弁護士会はあるのですが、インドネシアの法曹制度は日本とは大きく異なっているため、必然的にその役割も大きく異なります。

特に、インドネシアの弁護士会は独自に資格試験を実施し、この試験に合格すれば基本的に弁護士になれます。日本のように、裁判官・検察官・弁護士と同一の試験を受け、同一の研修を受けるわけではありませんので全然違いますね。

このように独立権限を有するインドネシアの弁護士会ですが、一旦は統一弁護士会(PERADI)を弁護士法により設立していたものの、現在は再度分裂し、今では6つの弁護士会が存在しているようです。

 

今回訪問させていただいたのは、その弁護士会のうちKAI(Kongres Adovokat Indonesia)というところです。

皆さん気さくな方々で大変歓迎していただき、

このように日本語の歓迎のボードまで作っていただきました。

 

こちらのKAIにはインドネシア全体で5〜7万人(正確な人数は分からないと言われてしまいました)中、約25000人のインドネシア人弁護士が所属しているということです。

 

先程述べた弁護士会の分裂について理由を伺いましたが、何か特定の決定的要因があったというわけではないが、残念ながら明確な答えは返ってきませんでした。

(そもそも前にあった統一弁護士会も真の意味で1つになれていなかったというご説明でした。)

今後の方向性としては、今ある複数の弁護士会を統一するというよりは、むしろ既存の弁護士会の上位組織として、別の団体を作る動きがあるそうですが、今年選挙したばかりで、まだ法制化できるかわからず、道はまだ遠いということでした。

日本と違いインドネシアでは各弁護士会がそれぞれ弁護士資格試験を実施するため、各団体で足並みが揃わなければ、弁護士の質の低下は今後大きな問題となりえます(極論を言えば、最大派閥を形成するために特定の弁護士会が試験の難易度を下げ、人数を増やしやすくすることも考えられます)ので、弁護士としての信頼を得るためには少なくとも試験制度の統一は実現していただきたいところです。

 

また、法曹に対する信頼と関連してインドネシアで必ず問題になるのが、法曹の汚職です。
直近では発覚したのが年に4件程度だそうですが、KAIの会長ご自身、未発覚の事例は他にも存在することを認めていました。若い裁判官だけでなく、ベテランの裁判官や大学教員まで務める弁護士も現に捕まっており、かなり由々しき問題となっております。

裁判官の初任給を伺ったところ、年間1億4400万ルピア(現在のレートで約110万円)ということなので、所得の低さ(と言ってもインドネシア全体の平均からすれば決して低額ではないと思われますが)も要因の一つなのかもしれません。

白熱した意見交換が行われましたが、こちらからは日本のお菓子をお土産に贈呈いたしましたところ、

(左が、KAI会長のHERNANTO先生、右がJILA会長の草野先生です。)

私を含め全員に盾と会員バッジをいただきました。

今後もインドネシアの弁護士会動向は注視して参ります。

 

おまけ

インドネシアで会合等に出席すると、必ずと言っていいほど水とともに↓の箱が目の前に置かれています。

この箱の中はというと,,,

大体このような感じで、お菓子と揚げ物、時にはちょっとしたパン(roti)が入っています。

勧められるので毎回食べるのですが、会合が一日3回あったりすると、もうこれだけでお腹いっぱいになって夕食を抜かなければならなくなるなどの弊害が出ます。

皆様もインドネシアで会議に出るときはご注意ください。

(歓待の証しなんですけどね。。。)

デポックに2週間生活して思うこと

ご無沙汰しております。

自宅のネットワーク環境が整わず、なかなかブログの更新ができませんでした。

なぜか私の部屋だけWi-fiが入らないという状況は未だ改善されていないのですが、ようやく様々な手続きが一段落しつつあるので、入国してからの約2週間、インドネシア(デポック)での生活を始めてみての雑感を残しておきたいと思います。

1 日本表記がとにかく多い

私が住んでいる街はデポック(Depok)というところで、ジャカルタから電車で1時間かからないくらいの場所にあります。この辺りは大学も多いほか、ジャカルタの郊外として人気が高いようで、たくさんの人で溢れかえっています。

その中で驚くのは日本語表記の多さです。

日本食(と称する)レストランはいうに及ばず、街の至るところで日本語表記を見かけます。

正規の日本の企業も多く見かけますが、中には怪しいものもたくさんあります。

このお店は東南アジア全般で有名ですね。

最近ではYahoo!ニュースでも取り上げられたようで、日本でも一気に知名度が増しているようです。

ロゴはどうみてもユニ○ロ、品物は無○良品といった感じの店舗です(ただし、写真の店舗はmarvelとのコラボ店舗のため、かなり色使いが派手です。)

日本語が多いというのは、日本製品の品質に対する信頼や羨望への表れではないかと勝手に思っております。

ロゴに使うフォントが明朝体だったり、日本ではそんなわけないだろうみたいな形で日本語を使うので、日本人からすれば大体すぐに日本のものかどうかはわかるのですが、インドネシアの方々は、なんとなく日本語が書かれていることしかわからない(インドネシア人に聞いてみましたが、勉強していない限り平仮名とカタカナの区別もついていません。)ので、日本企業にとっては、どうやって真正の日本製品であるかをアピールするかがネックとなりそうです。

 

2 蚊が多い

そんなの知っているよとおっしゃるかと思いますが、本当に多いです。水が近くにあろうがなかろうが、人が集まるロビーなどには大体10匹くらいが待ち構えていて、あらゆる角度から狙ってきます。

虫よけスプレーも大して意味がないため、最大の対策は、長袖・長ズボンを着ることです。

 

3 思ったより暑くない

日本では連日、猛暑・豪雨がニュースになっているようですが、こちらは大体30度前後で推移するため、東京の夏よりも断然こちらの方が過ごしやすいです。

それでもインドネシア人は暑がりなのか、暑いといっては冷房の温度を16度に設定してくるので、太陽よりもエアコンとの戦いの方が大変です。。。

 

4 歩きスマホする人がいない

日本では社会問題となっている歩きスマホですが、こちらではあまり見かけません。そもそもバイク・車での移動が中心のため、人が歩いていないというのが一番の理由ですが、実際に歩いてみると別の理由もありそうでした。

このような感じで、街のいたるところに絵に描いたような落とし穴がありますので、道路を見ていないと絶対に落ちます。

ご覧の通り、点字ブロックも一応は設置されているのですが、目の見えない方が歩ける可能性は限りなくゼロですね。

ちなみに車道には落し穴は(たまにしか)ないのですが、所々に半円筒状の段差が設けられていて、スピードを落とさずに直進すると、車は頭を天井にぶつけ、バイクは転倒する仕組み担っています。日本だとせいぜいメロディがなる薄い塗装をするくらいですが、道路上の瑕疵レベルの障害物を置くあたり、インドネシアの本気度を感じます。

 

5朝が早い

インドネシア人の朝は早いです。

大学も8時にスタートするのですが、これには宗教が大きく影響しているようです。

インドネシア人の87.21%(2016年,宗教省統計)がイスラム教徒ですが、彼らには1日5回のお祈りがあります。

そして一日の始まりのお祈りを日の出前に行うため、モスクが午前4時頃に拡声器で街中にお祈りの時間を知らせてきます。慣れないうちはこれに苦しめられる外国人も多いです。私の場合、4時に起きてもいいように、逆に早く寝る方向で対策しました。。。

さらに輪をかけて、インドネシア人は鶏をペット(目覚まし)として飼っており、これもまた日の出前に鳴いてモスク拡声器を後方援護してきます。

 

とこれまで心にうつりゆくよしなし事をそこはかとなく書いてきましたが、今後もインドネシアの法律は勿論のこと、インドネシアの情報をお伝えして参りますので、よろしくお願い申しあげます!