半年を振り返って

Selamat siang! (インドネシア語でこんにちはという意味です。)

クリスマスも終わり、いよいよ年末年始ですね。

インドネシアではクリスマスに多少の盛り上がりをみせるものの、日本のような年末年始休暇はありません。そのかわり、イスラム教の宗教行事であるラマダン(12ヶ月のうち1ヶ月間行う断食)後にレバラン休暇が1週間近くあります。ヒジュラ暦(イスラム暦)で計算されるので毎年違うのが厄介なポイントです。2020年のラマダン・レバランは4月~5月ですので、その際にこちらの様子をお届けしたいと思います。

さて、今回は2019年最後の更新ということで、来インドネシア半年(正確には4ヶ月半なのですが)を振り返りたいと思います。

1 大学生活

私が参加しているのは主に交換留学生を対象としたプログラムなのですが、私が留学しているインドネシア大学にはインドネシア人学生を対象とした英語での授業が元々あり、それに参加する形式でした。法学部に参加する奇特な外国人は私しかおらず苦労する場面も多かったですが、周りの学生に助けてもらいながらなんとか過ごすことができました。(とは言っても、英語の授業リストのはずがインドネシア語の講義が混ざっていたり、英語と称したほとんどインドネシア語の講義があったりで、やむなく受講停止した科目もありました。。。)

久しぶりの大学(学部)生活は新鮮でしたが、日本とはなにもかもが違いました。

こちらでの生活自体には比較的早い段階で適応したのですが、大学生活に適応するのに費やした半年だったといっても過言ではありません。

第一に、課題・グループワークの量が明らかに異なります。日本の学部に通っていたのが10年以上前なので、これが時代の変化によるものなのか国の違いによるものなのかが定かではないのですが、どの授業もほぼ毎週といっていいほど、レポート課題やプレゼンテーションの課題が出されますので、私のプログラムはそれほど授業単位数が多くないのですが、それでも慣れない作業に四苦八苦する日々でした。

グループワークも多いのですが、昔と違いわざわざあって話し合うのではなく、ドキュメント共有アプリ上で文章やプレゼンテーション資料を作成していくあたりは、どちらかというと時代の問題ですかね。。。

第二に、教授の厳しさと適当さの違いですね。課題提出に関してはやたら厳しいのですが、講義スケジュールはというと、正直に言えば(日本的な観点から言えば)お粗末としか言いようのない状況でした。第一週の講義に緊張しながらクラスに赴いたものの、1クラスを除き参加したすべてのクラスの教授が初日の講義の日時を間違え、休講になったことは特に大きな衝撃でした。。。

突然の休講も頻繁にある(幸にして私は事務課の人と仲良くなったので、前夜に個別に連絡をもらえるようになりましたが)一方で、こちらの大学は休講した分は必ず補講を行うという制度であるため、ただでさえ1コマ2.5時間ある授業を連続して2コマ行うという暴挙もしばしばでした。

日本人にとって、このスケジュールの読めなさはかなり致命的ですが、おそらくビジネス界も似たり寄ったりなのだろうと今から諦めのような覚悟をしております。

それにしても、試験日が1週間前まで分からなかったり、事前に言ってた試験範囲・形式と全く異なる出題をしたり、法律家として「予見可能性」や「公平性」という単語を知らないのか!と言いたくなることも多々ありました。

2 法律

この半年は主に株式会社法を中心に勉強をしておりました。株式会社法のご紹介は来年も引き続き当ブログでご紹介して参ります。

日本企業がインドネシアに進出するには、ほぼ株式会社の形態一択ですので問題ないのですが、こちらでは日本とは異なり、パートナーシップ形態による事業活動も盛んなようです。日本では最低資本金制度が撤廃されたこともあり、わざわざ経営陣(法律的には「社員」といいますが、日常用語の従業員としての意味ではありません。)が無限責任を負う合名会社・合資会社を新規設立することは少なくなったように思いますが、こちらでは未だ最低資本金制度を採用している(インドネシア企業にとっては2019年12月時点のレートで日本円にして10万円程度なのですが。外資企業の資本金規制は全く別のでご注意ください。)ことも一つの要素と考えられます。厄介なのは、日本の合名会社・合資会社と違い、パートナーシップ形態には登記制度もなく法人格が存在しない点です。取引の際はこのような点にも気をつけなければなりません。

また、興味深いですが複雑怪奇なのが「アダット法」です。一種の慣習法なのですが、地域ごとというよりは部族ごとに有しています。アダット法については年明けにもう少し詳しくご紹介する予定です。

受講可能な講義リスト(授業名が書かれた1枚のリストだけを頼りに受講科目を15分で決めさせられました。。。)の中に「conflict of laws」(法の矛盾)という講義名を見て、私はてっきり法律、条例、大統領令、省令の相互矛盾の講義かと思い受講したのですが、実際はは法律、宗教法(主にイスラム法)、そしてこのアダット法の相互矛盾についての講義でした。

期待していた内容とは全く異なるものでしたが、なるほど確かに非常に難しい問題で、興味深い内容でした。そもそも慣習法の性質上不文法であるため、その内容把握が困難であるうえに、法律等との優先関係も不明であることにより複雑さに拍車をかかります。

また法律の内容というよりも、法令調査の難しさにも直面しました。

ごく基本的な法律に関しては英訳が存在するのですが、その英訳も法律事務所等が訳したものですので、正訳ではありません。民法に至っては原文が殖民地時代のオランダ語のままですので、インドネシア人のほとんどが原文の民法を読んだことがない(インドネシア語訳のインドネシア民法で勉強しています)という事態に陥ったままです。このため、少なくともこの半年間の講義では、日本のように条文の「文言」を解釈するような話は聞かないままでした。

日本のような判例データベースが存在しないため、法律解釈論の蓄積がなく、これが裁判での結果の予測可能性を著しく損なわせているように感じます。このあたりとどう折り合いを付けていくかが(現地の法律家がどうしているのかを知るのが)来年以降の私の課題です。

3 語学

インドネシア、特にジャカルタ近郊の学校では英語教育が盛んで、私が所属しているインドネシア大学法学部(の特に英語で講義を受けるコース)の学生はみな英語が堪能で圧倒されました。この前旅行中に出会った14歳の女の子ですら、日常会話にはなんら不自由がないほど英語を使いこなしており驚くばかりです。

このため、大学生活ではほとんど英語で生活していたことから、期待していたほどインドネシア語が習得できなかったのが反省点です。来年はもう少し生活を工夫して、インドネシア語を使用する機会を増やさねば。。。

とはいうものの、旅先で必要なことを片言で伝えられるくらいにはなったので、12月にはスラウェシ島と、そしてコモド島のあるフローレス地方に行ってまいりました。これらに関しては年明けにまたこちらでご紹介したいと思います。

インドネシア語は、世界一簡単な言語と言われ、たしかに文法の複雑さはそれほどないのですが、いくつかの落とし穴があります。

第一に、現地語の存在です。インドネシアには300もの部族があり、部族ごとに独自の言語をそれぞれ使用しています。その数は一説には700言語とも言われており、公式文書は別としても、日常会話では現地語も混ざって会話がなされることも多々あるため、特に聞き取りには困難を極めます。抑揚なく、呼吸をおかずに話し続けますしね。

第二に、略語の存在です。長々と話す割にめんどくさがりのところがあり、会話では略語がとても多く使われます。インドネシア人のグループチャットをみていても、略語が多すぎて全然わかりません笑

第三が発音方法です。特にLとR、FとVが聞き取れません(少なくとも私には)。LとRは日本人と異なり、両方とも巻き舌のように発音し、FとVに至ってはオランダ語のせいか同じ発音なのです。また、Eは、「エ」と発音する場合と、「ウー」(但し口の形は「イ」の形)と読む場合があったり、日本語では「ン」でもインドネシア人は「N」と「NG」で発音を区別しますので注意が必要です。

これらの発音は頻繁に英語でも発動するので注意が必要です。ある日の株式会社法の授業中、株主総会の説明で教授がずっと「フォーティーンライト」と言い続けるので、私はずっと「fourteen rights」(14の権利)があると思っていたのですが、しばらくして「voting right」(議決権)だったことに気がつきました。。VをFと同じように読み、NGを「ン」と発音してしまうとこうなるんですね。。。

第四に文法が簡単ゆえの表現のゆれの多さです。正直に申し上げて、まだその細かいニュアンスを表現する段階には至っていないのですが、文法がないせいで、逆に一つの文章が複数の意味に捉えられることも多いように感じます。よりちゃんと説明しようと思うと、おそらく話がめちゃくちゃ長くなるんですね。

4 文化・生活

この半年間、一番注力してきたのは、インドネシアの文化・生活を体験することでした。インドネシアとひとことで言っても、多民族国家のインドネシアでは全く異なる文化が共存しているため、体験するためには必然的にあちこちに行かざるをえません。

各地域の文化については、これまでも個別にご紹介して参りましたし、これからも別途記事でご紹介する予定ですのでここでの詳述は割愛しますが、インドネシア文化を理解するうえで欠かせないキーワードは「宗教」と「土着文化」の融合だと感じました。

国全体でいえば、人口の約90%がイスラム教徒なのですが、島によってはキリスト教やヒンドゥー教が大半を占める地域も多く存在します。

この国の国是として「多様性の中の統一」という素晴らしい言葉があります。しかし、現在では多数派を占めるイスラム教徒によりこれが侵されようとしている側面があり、今後の注視が必要ですが。

いずれにしても、多様性を基礎として成り立つこの国では各地域の文化・ルールを知ることがインドネシアの方々と仲良くなる一番の近道のような気がしています。

日本では国土全体を表現して「北は北海道から南は沖縄まで」と言うことがありますが、こちらでは「サバンからメラウケまで」といいます。サバンは西の果てのサバン島(津波で有名になってしまった厳格なイスラム教で治められるアチェ州にあります。)、メラウケはインドネシア領パプアの東の町です。東端から西端まではアメリカ大陸より長いので大変ですが、なるべく来年で全国各地を回って各地の生の文化をお届けしたいと思います。

長々と書きましたが、来年も色々書いていきますので、これからもご愛読いただければ幸いです。

それでは皆さま、良いお年を。